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ヒスイカズラの翡翠のひみつ

もっと光を!

早春の3月頃から花の見頃を迎える熱帯植物にヒスイカズラという植物があります。ちょうど3年前のこの時期に福島県いわき市の水族館「アクアマリンふくしま」で開催された「めひかりサミット*1に参加した際、初めてこの花を目にしました。

 

以来、アクアマリンふくしまヒスイカズラを見て「今年もめひかりサミットの時期なんだなあ」などと思うようになりました。考えてみれば「アクアマリン」は鉱物としては青色のベリル(緑柱石)であり、色としては緑と青の中間色、「メヒカリ」は英名をRound Greeneyes、和名をマルアオメエソで、これらに加えて「翡翠」と来れば青緑系の色調で統一され、カラーコディネート的にもバッチリですね。

 

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さてこのヒスイカズラ、その名の通り花が「翡翠色」をした葛(つる性の植物の総称)で、マメ科に分類されます。一つが10cmほどの勾玉状の花が房状に連なり、房は長いものになると1m近くにもなるそうです。原生地のフィリピン・ルソン島で野生種は絶滅危惧種となっているようですが、日本国内では多くの熱帯植物園などで観賞することが出来るだけでなく、タキイあたりの種苗会社からは園芸用の苗も販売されており、冬季の温度管理などを適切に行うことで、栽培も(まったく)不可能ではないようです。

 

それにしてもこのヒスイカズラ、随分と変わった花の色ですよね。昨年、大阪の咲くやこの花館が「あのボーカロイドのような」と紹介したことで、話題にもなりました。しばしばこの花の花粉を媒介するコウモリがこの色を好むからなどとも言われますが、原産地フィリピンでは絶滅に瀕しているほどなので実際のところはよく分からないのだそうです*2

ヒスイカズラがこのようにちょっと変わった花の色を示すのは、化学的には主に次の3つの要因からなります。

 

【コピグメント効果】

まず一つ目の要因は、アントシアニンのフラボノイドによる「コピグメント効果」によるものです。アントシアニンギリシャ語のanthos=花、kyanos=青(シアン)に由来することからも分かるように、青色系の花の色素として知られています。植物の液胞中で、アントシアニンは糖が結合した配糖体として存在します。この糖などを除いた発色に関係する色素の部分は一般にアントシアニジンと呼ばれるフラボノイドのひとつであり、より大きな分類ではポリフェノールの一種です。アントシアニジンには共通した基本の骨格に異なる修飾基が付加した様々な種類が存在し、その違いによって赤~紫~青の色を呈します。

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岩科らの研究*3により、ヒスイカズラの花の色素はこのアントシアニンの内のマルビンであることが明らかになっていました。

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このマルビンは様々な種のブドウの果皮にも存在し、赤ワインが「ワインレッド」を呈する上で主要な色素であることからも分かるように、中性溶液中では赤紫を呈します。これが「がく」のような青紫を呈するのはモル比でマルビンの9倍存在するサポナリンのためであることが、東京学芸大の武田らの研究*4で新たに示されました。

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サポナリンは、アントシアニジンと同じくフラバン骨格を持つフラボンのひとつのアピゲニンに、ふたつの糖が付いたフラボノイドのひとつです。

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こうしたフラボノイドがアントシアニン共存すると溶液中で積層構造を取り、これがアントシアニジンの電子状態に影響し青色化することが知られています*5。これは「コピグメント効果」と呼ばれ、実際マルビンだけの場合と比較してマルビン:サポナリン=1:9の条件では、溶液の吸収極大波長が611.3 nmから620.5nmへと長波長側にシフトし、結果的に赤が抑えられより青味が増すことが吸収スペクトルからも確かめられました。また同時に、アルカリ条件では不安定なアントシアニジンを安定化させ退色を防ぐ効果もあると考えられています。

 

他にもこのコピグメント効果によって青味を増す花として、ハナショウブやキキョウ、リンドウ、デルフィニウムなどが知られていますが、一言にコピグメント効果と言ってもアントシアニジンと他のフラボノイドなどとの作用は様々なようです*6

 

【アントシアニジンとサポナリンのpH効果】

残りの二つの要因は、花弁の表皮細胞のpHによるものです。まず、花弁が青紫でなくより青に近い色合いになるのは、アントシアニジンであるマルビジンのpHによる吸収波長の変化のためです。同じく武田らの研究によりヒスイカズラ花弁の表皮細胞の抽出液のpHは7.9と、無色の花弁内部の細胞や一般的な花弁の細胞が示す弱酸性とは異なり、例外的に高いことが示されました。

 

このpHによるアントシアニジンの色の変化は、ムラサキキャベツなどから抽出した溶液などでも確かめることができ、簡便なpH指示薬になることが知られています。

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このように、重曹で得られる程度の弱いアルカリでも明らかな青色への変化を確かめることができます。これが更にpHが11以上となるアルカリ洗剤を滴下すると緑から黄色へと変化しますが、いずれにせよ「あのボーカロイド」のようなみっくみくな色合いにはなりません。

 

アントシアニンと言えば、しばしば話題になる「ムラサキキャベツを使って焼きそばを作ったらトンデモない色の焼きそばに!」というのがありますね。これはアントシアニジンが麺に含まれる「かんすい」のアルカリと反応したためで、レモンなどの酸を加えることでピンクの焼きそばとなることが知られています。この時の焼きそばの色が、ちょうどヒスイカズラの青緑に近い色合いに思われます(参考:カメレオン焼きそば - 愛媛県総合科学博物館 )。

 

すなわち、あのみっくみくな色合いはアントシアニジンの青に黄色が加わることによるものです。焼きそばの場合の黄色は元の麺の色に由来しますが、ヒスイカズラの場合は、サポナリンがその役割を果たします。中性条件下でサポナリンは無色ですが、これが弱アルカリ性の溶液中では黄色を呈することがやはり武田らの論文で示されました。これこそがマルビンの青色と相まって「翡翠色」を呈するために必要なもう一つの要因に他なりません。

 

そんなヒスイカズラですが、花言葉

 

やはりこの時期に可憐な青色の花を咲かせるこの花

 

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と同じなんだそうです。 この季節は同時に様々な別れの季節でもありますね。そう考えると、この季節の花の青は少し切なくも感じます。

 

謝辞:執筆に際し、東京学芸大学名誉教授の武田幸作先生より、論文の複写をお送り頂きました。この場を借りて御礼申し上げます。一緒に添えられた紫陽花のメッセージカードも素敵です。

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*1:ひかりサミット:毎年3月にいわき市の魚でもあるメヒカリをシンボルとして、アクアマリンふくしまで開催される主に持続可能な漁業や水産資源の活用などをテーマとした一般も参加可能な公開イベント。演者による講演だけでなく、その後に催される試食会も楽しみのひとつ。

ひかりサミット in 福島。 目からウロコの魚トーク | 国際環境NGOグリーンピース http://greenpeace.org/japan/ja/high/news/blog/staff/in/blog/52301/

@yajifunさんによることしのメヒカリサミットのレポート http://togetter.com/li/947117

*2:ヒスイカズラ :: おすすめコンテンツ ≫ 植物図鑑 :: 筑波実験植物園(つくば植物園) Tsukuba Botanical Garden

*3:Iwashina, T., Ootani, S., Hayashi, K., 1984. Pigment components in the flower of Strongylodon macrobotrys, and spectrophotometric analyses of fresh petal and intact cells. Res. Inst. Evolut. Biol. Sci. Rep. 2, 67-74.

*4: Greenish blue flower colour of Strongylodon macrobotrys. Kosaku Takedaa, Aki Fujii, Yohko Senda and Tsukasa Iwashina, Biochemical Systematics and Ecology, Volume 38, Issue 4, August 2010, Pages 630–633, doi:10.1016/j.bse.2010.07.014

*5:宮崎大学農学部応用生物科学科植物遺伝育種学研究室 | アントシアニンの化学: http://www.geocities.jp/breeding_ivk/yabuken/A7_3.htm

*6:農研機構 | 花き研究所 | 花の色のしくみ | 青色: 

https://www.naro.affrc.go.jp/flower/kiso/color_mechanism/contents/blue.html